タイムリミット

 この年になると世の中の半分くらいは裏が見えてきた気がして、ちょっとやそっとのことじゃ心が動かされたりしない。そうね、かろうじて乙女心が残っていたン年前の私だったら喜んでたかもしれないけどね。
――婚活パーティなんて。

『……はぁ? 私があんたの代わりに出席?』
『そうよぉ。お願い。その日、ママが強引に入れちゃったの、お見合い。正式な、一対一のよ。わざわざ田舎から出てくるの。仕事だって言って断ったんだけどさー、会社に電話までしてきてねー、どうしても行かなくちゃならなくなったの。すっごい上玉だし、名士のご推薦だし、つって、ほんとかどうかわかんないんだけどー。だからお願い、代わって? コンカツよ、コンカツ。あんたにあげるわ。バースデープレゼント。行って来てよ。どうせ今男いないっしょ?』

見知らぬ男女が結婚相手を探す目的で集うパーティ。そんなものに行って来いと? この私に? 一体いくらなのか知らないけど、バースデープレゼント代わりにくれてやるって? セコッ。というか言い返せないのが悔しい、最後の一言。私は携帯を耳から離して睨み付けた。

『最後のチャンスよ。結構ハイグレードだから。年収1000万未満の男はぜーーったい来ないから』

って、聞いてないし、そんなこと。そもそも代理出席頼める程度じゃ、どんな誤魔化しだってきくでしょうに! あてにならないじゃない。

『いやよ、私。興味ないもの』
『いいじゃないの~』
『他の子に言ってよ』
『確実に相手がいないのあんただけなのよ』

うっ。

『これで男できれば棚ボタでしょ』
『そんな軽々しいお相手なんてはなから求めてません! キャンセルしちゃいなさいよ』
『キャンセルしても金は戻ってこないのよ。もう払い済みなの』
『……アンタねえ』
『それに、キャンセルなんてしちゃったら印象悪くなっちゃうでしょ。もし見合い相手が冴えなかったら、またお世話にならなきゃならないんだし』

ダメだ、こりゃ……。私は再度携帯を耳から遠ざけながら、『ええ、わかったわ。行けばいいんでしょ』覇気を失った声で答えた。能天気が声が返ってくる。『そうこなくっちゃ』

『私のふりしてるのは最初だけでいいの。係の人が見張ってるわけじゃないから。いいオトコがいたらあんた個人的にアプローチしちゃってオッケーよ』

何がオッケーよ。携帯の向こうにいる友人岡路は日付と場所と会の簡単な説明をして、『じゃあね』と調子よく切った。2DKの慎ましい部屋に響くツーツーという間抜けな音。続いて、ボンッと携帯をソファに投げつける音。
久しぶりに女友達からかかってきたかと思えばこれだ!
確かに、私はその日暇で、相手もいませんけど?
だからといって、婚活パーティなんてものにお世話になろうなんて、これっぽっちも思ってない。
くやしぃ~~。

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