タイムリミット6

 「え、やったじゃない。あんたにしちゃ上出来よ」

 数日後私は岡路とカフェで落ち合った。報告会だ。一応連絡先を交換したし、私は正直に伝えた。

「私もね、うまくいきそうよ。ドライブに誘われちゃった」

 岡路はすっかり浮かれてる。給仕が来て注文したカルボナーラがテーブルに並んだ。

「愛車に乗せてくれるって。車好きなんだって、彼。どこに行こうかなあ」
「房総あたり?」
「そうね、全部お任せしちゃおうかな。エスコート力を試さなきゃ」
「ふうん」

 興味ないわあ、こういう会話。男と外車でドライブ? ないない……。

「サロン予約したわ。ネイルも……。ああ、あんた、ネイルくらいきちんとしときなさいよ!」
「えっ」

 メンドくさ……。私は自分の何もしてない裸の爪をそっと隠した。眉間にシワ……そこまでじゃないけどすっごく嫌そうに、顔に出てたと思う。

「ほら、それそれ、その態度が親父だっつーの! 何よその女子を捨てた態度! せめて爪は塗っときなさいよ、手も足も!」

「え、足も?」

 私がぽかんとしてると岡路は声を荒げた。

「当たり前でしょ、これからあったかくなるんだもん、かかと、つま先のお手入れもしとかなきゃ。今やペディキュアは常識でしょうが!」
「ええー、いやよ、サンダル履くときだけでいいじゃない。てか、私、似合わないからそういうの。ゆるふわ女子じゃないし」
「何言ってんの!」

 岡路はカルボナーラをすくうのをやめ、一層激しく言い立てる。

「あんたねえ、二言目にはゆるふわゆるふわって女子を目の敵にしてるけど! 女の子が女子力保つためにどれだけ努力してると思ってるの! メイクもネイルも服装だって、日々の努力の賜物なのよ。あんたなんて何? ただのめんどくさがりじゃない!」

 結構な大声で。周りの視線が一瞬集まった。
 めんどくさがり……。たしかに。私は返す言葉がない。今日の服装……某ファストファッションのシャツワンピにデニム。一応リップと眉はいじってるけど、せいぜい毎日のお仕事レベル。ナチュラルメイクの下の下ってとこか。

「そんなガサツなデカ女を気に入ってくれたんだから、せめてその好意に報いるのがマナーってもんでしょ? 元は悪くないのよ。別にゆるふわを目指す必要ないじゃない」
「目指してなんかない……」

 私は小声で反論する。ガサツなデカ女………ズキズキ。

「そうよ。だからこの際ゆるふわは捨てなさい。逆に強い女をアピールするの。カッコイイ系。あんたその線でいきなさいよ」
「……わからないわ。そんな、具体的にどうなの」
「アイドルっぽい、女子アナが着てそうなスタイルはきっぱりあきらめるの。胸元を強調して、セクシーを前面に出して!」

 パーティに着ていった服装はダメだったってことだ。
 ひらひらふわふわしたワンピース。
 でもアレあんたと一緒に買い物して選んだんじゃなかったっけ?

「よし、『カッコいい女』でいきましょ。だからってノーメークなんてもってのほか! 目も口もバッチリラインを引くの。テイラー・スイフトよ。あえてゆるふわの反対。同じ路線で勝負することないわ。あんたらしさを出すの!」

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